サムネイルミリタリー初心者に向けて、軽いミリタリー知識をご提供する「ミリタリーへの招待」。アニメ『ガールズ&パンツァー』をきっかけに、再び戦車に対する人気が高まっている昨今。

今回はそれに関して、初心者が見分けにくい「戦車のようで戦車じゃないもの」について、自衛隊の装備を使ってご紹介しましょう。


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現在、陸上自衛隊が装備している戦車は、採用順に74式戦車、90式戦車、10式戦車の3種類。最新鋭の10式戦車は、2012年の総合火力演習(総火演)に初参加し、その優れた性能を見せてくれました。

74式戦車
90式戦車 10式戦車

74式戦車は105mm、90式戦車と10式戦車は120mm砲を主砲としています。この他に7.62mm(74式車載機関銃)と12.7mm(重機関銃M2)の機関銃も装備。74式戦車は、10式戦車の調達に伴い、入れ代わりに数を減らしていくことになっています。

ところで、自衛隊の駐屯地公開行事などに行ってみると、同じようにキャタピラ(装軌)の車体に砲を載せた車両を目にすることがあります。一般の人は「これも戦車?」と思ってしまいますが、厳密には違う装備なのです。

代表的なものが「自走砲」と呼ばれるもの。陸上自衛隊では203mm自走りゅう弾砲、99式自走155mmりゅう弾砲などがあります。

203mm自走りゅう弾砲 99式自走155mmりゅう弾砲

見かけ上、同じように見えますが、これは元々別のものが進化していった結果、同じような形になったもの。名前にも表れている通り、戦車は「車両」、自走砲は「砲」からそれぞれ発達したものなのです。

それぞれの誕生と進化の過程を簡単にご紹介しましょう。

まずは戦車。第一次世界大戦で機関銃が一般化され、旧来の歩兵による突撃戦法が困難になりました。歩兵が進むには、機関銃などを排除し、突破する必要があります。

そこで、弾が当たっても大丈夫なように装甲を施し、悪路を走破する為にキャタピラを装備して、敵陣を突破する為の車両が作られました。これが戦車です。ちなみにドイツ語で戦車の通称として使われる「Panzer(パンツァー)」は「装甲(鎧)」という意味。

戦車が登場すると、それに対応して相手も戦車を作ってきます。こうして、徐々に戦車は歩兵の進撃を助けるものから「相手の戦車を撃破すること」に任務が変化し、主砲や装甲を強化する形で発達していったという訳です。

日本でいうと、最初の国産制式戦車であり、『ガールズ&パンツァー』でアヒルさんチーム(バレー部)が使用した八九式中戦車は、歩兵の進撃を助ける戦車。太平洋戦争末期に制式化され、同じく『ガールズ&パンツァー』でアリクイさんチームが使用した三式中戦車は、戦車と戦う為に作られた戦車ということになります。……ちなみに、三式中戦車の乗員は5名なので、アリクイさんチーム(3名)では人数が足りず、体力ないだろうにやたら忙しい形になってしまっています。

八九式中戦車乙型 三式中戦車

続いて、自走砲です。本来、砲(大砲)というのは、歩兵部隊の後方から火力支援(砲撃)する兵器で、馬なり牽引車なりに牽引されて移動するもの。移動して陣地に着いたら、牽引状態を解除して砲撃準備をして、撤収・移動する際にはまた牽引状態に移行して……という手順を踏むことになります。

203mmりゅう弾砲M2

ところが、戦車が開発され、歩兵などの進撃速度が上がると、移動に伴って色々準備に手間がかかる砲は、追随していくのが大変になります。また、牽引する車両がいなくなると移動することができません。

そこで、砲を直接車両に載せ、自力で移動・展開できるようにしたものが作られました。これが自走砲です。特に現代では、一度砲撃すると相手に場所を知られてしまう為、その場にとどまり続けると反撃されてしまいます。砲撃後、速やかに移動する為にも、自走砲の展開力は重要です。

戦車は敵陣を突破する為に最前線で戦う為、装甲も丈夫にできていますが、自走砲は後方から支援するものなので、戦車ほど丈夫な装甲は持っていません。また、主砲も戦車は相手を直接狙う為に、ほぼ水平に撃つのですが、自走砲は後方から撃つのでより射程距離が長く、水平だけでなく山なりに撃ったりもする為、砲身もより上に向けることができます。

戦車と自走砲の違いというのは、大まかに言うと以上のようなものです。また、陸上自衛隊では戦車は戦車兵である「機甲科」、自走砲は砲兵である「特科」が運用……と、完全にジャンルの違う装備として扱われているんですね。

陸上自衛隊には、戦車と自走砲の他にも、まだまだ「一見戦車みたいな車両」があります。

「ガンタンク」とあだ名される87式自走高射機関砲は、戦車にとって脅威となる空からの攻撃を排除する為に作られたもの。戦車と一緒に行動できるように、高射機関砲を自力で動けるようにした装備品で、これは高射特科が運用しています。回転式砲塔に装備した各種レーダーや射撃統制装置を用いて、2門の35mm対空機関砲をコントロールします。

87式自走高射機関砲

戦車とともに行動する普通科隊員(歩兵)を輸送しつつ、小規模な脅威を排除する目的で開発されたのが、89式装甲戦闘車。外国では「歩兵戦闘車」と呼ばれる種類の車両で、その名の通り歩兵であるところの「普通科」が運用する装備です。回転式砲塔に35mm機関砲、他に7.62mm機関銃と多目的ミサイルである79式対舟艇戦車誘導弾(重MAT)を装備。3名の運用員の他、7名の隊員を輸送できます。

89式装甲戦闘車

素人には区別しにくい「一見戦車みたいな車両」の種類と違いを、身近な陸上自衛隊の装備を使ってご紹介してみました。戦車・自走砲などの違いは結構あいまいになっている部分もありますが、運用する側が「これは戦車」「これは自走砲」として区別しているので、それを参考にしてください。これから自衛隊の広報イベントが本格化するので、お出かけになった際には違いを見比べてみてはいかがでしょう?

ただ、ご紹介した装備、74式戦車を除けばほとんどが北海道(一部は静岡県の富士駐屯地と茨城県の土浦駐屯地、千葉県の下志津駐屯地)にあるものなので、他地域では見ることが困難だったりしますが……。

(文・写真:咲村珠樹)