【うちの本棚】第百十四回 山河あり/河あきら「うちの本棚」、これまで紹介してきた河あきら作品も一段落。今回は河あきらが戦争をテーマに描いた異色作『山河あり』をご紹介いたします。映画化されてもおかしくない濃密なドラマをご堪能ください。


河あきらが太平洋戦争時代を舞台にひとりの女性の半生を描いた作品。すでに『いらかの波』も手がけていたころの作品であり、これまで紹介してきた河あきら作品とはかなり印象の違う作品といえる。もっとも、家庭や学校生活の中での閉塞感から逃れたいとあがく主人公を描いてきた河あきらにしてみれば、戦争という時代の中に生きる本作の主人公は、本質的な部分でそれまで描いてきた主人公たちの延長線上にいると言ってもいいだろう。

作品自体は100ページの読みきり作品だが、テレビの連続ドラマのような時間の流れ、主人公の生きざまが描かれていて読みごたえがある。また戦争を、あるひとりの女性の視点から描いているという点でも注目していい作品といえるだろう。歴史として戦争を知っているものからすれば忘れがちな、その当時生きていた一般のひとりの女性の視点が見事に描かれている。この点では映画化、ドラマ化、舞台化されてもいいような作品といえるだろう。

河あきらは初期の代表作から社会派の匂いを漂わせていたが、本作でもひとりの女性の半生を描きながら戦争の意味を問う作品に仕上げている。

現在、河あきらのマーガレット時代の作品はなかなか気軽に読める状況にないのが残念だが、古書店などで見かけることがあれば迷わず手に取ってほしい。後悔はしないはずである。

初出/集英社・別冊マーガレット(昭和53年8月号)
書誌/集英社・マーガレットコミックス(1981年8月30日初版発行/併録・マッチ箱とんとん、パパとママは恋してる)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/