【宙にあこがれて】第18回 落ちませんように……こんにちは、咲村珠樹です。いよいよ今年もあともう少し。年が明ければ初詣に、本格的な受験シーズンの幕開けです。

受験生であるが故に「クリスマスも正月も関係ねぇや!」って方も結構いらっしゃることと思いますが、今回は初詣や受験にちなんで、空に関わる神社仏閣についてのお話です。
……という訳で、B787の最終回はこの次、ということでご容赦ください。


皆さん、東京・羽田空港に神社があることはご存知でしょうか?

羽田航空神社

第1ターミナル1階、郵便局やエアポートラウンジのちょうど裏手に、歯医者さん(ターミナル歯科)と並んで「羽田航空神社」があります。

羽田航空神社

手前にトイレがあり、その通路の奥……という、ちょっと目立たないところにあるこちらの神社、結構歴史は古くて昭和38年からありまして、旧ターミナル時代は屋上の送迎デッキに鎮座していました。祭神は航空界発展の礎を築いた方々の霊で、航空界の躍進と航空安全輸送に関するご加護を祈念しています。ターミナルで、空港を発着する飛行機の安全を護っている訳ですね。

ところで、この羽田航空神社は分社。本社である「航空神社」は、港区新橋に建つ航空会館の屋上にあります。航空会館は日本航空協会が本拠を置いているビルで、かつては大日本航空協会の本部である飛行館という建物が建っていました。飛行館は玄関上に飛行機のレリーフがあったりして、なかなか建物としても素敵な建物でした。

航空神社

1931(昭和6年)に創建されたこの航空神社、ビルの屋上だけあって「空に近い神社」といった雰囲気。開放的な感じです。残念ながら、羽田も新橋も神職さんが常駐するような神社ではないのですが、毎年9月20日(空の日)に行われる例大祭や、毎月第一火曜日の月次祭には、創建時に宮司さんが鎮座祭を行った縁で、靖国神社から神職さんがやってきて神事を執り行っています。

お守りもありますが、これは社殿のある屋上ではなく、航空協会の総務課で取り扱っていますのでお問い合わせください。また、航空会館の休館日である日祝日、年末年始(1月3日まで)を除く9時~17時までしか参拝できないのでご注意ください。

空に関するものは神社だけでなく、お寺もあります。

「飛不動」の名で知られる龍光山正宝院

東京都台東区。酉の市で有名な鷲神社のすぐ近くに「飛不動」の名で知られる龍光山正宝院。名前の由来は、創建間もない頃、住職が本尊である不動明王像を伴って奈良県の大峰山で修行をしていた際に、本尊が一夜のうちに寺に戻り、本尊の分身を携えて寺に集っていた信者達にご利益を授けた……という故事によるものです。あまりに速かったので「空を飛んでお戻りになったのに違いない」ということから、飛不動として有名になったとか。寛文年間(1661年~1673年)作られた地図には、すでに「飛不動」の名前でこの寺が載っているので、江戸の名所として知られていたことがうかがえます。

飛行機が一般的になった現代になると「空飛ぶお不動様」というところから、航空安全を祈願する参拝者が増えました。お寺の方もそれに対応して、航空安全のお守りやお札を授与するようになっています。

御札やお守り

御札

これらの神社仏閣で授与されるお守り、今は航空安全(墜落しない)ということから「落ちないお守り」として、受験生にも好評だそうですよ。

東京の神社仏閣をご紹介しましたが、関西圏では京都府八幡市の「飛行神社」が有名です。こちらも航空安全の神社としてあつい信仰を集めており、飛行機の中にお札があったります。

「飛行神社」の御札

飛行神社を創建したのは、二宮忠八という人物。実はこの人、日本における航空のパイオニアとして知られています。ライト兄弟と同時期に「飛行器(飛行機の呼称はこれにちなむ)」の研究開発をしていて、模型飛行機による実験に成功していました。この飛行器には既に垂直尾翼や水平尾翼もあって、現在の飛行機のように操縦することが可能な構造を持っていたのです。ただ、当時としてはあまりにも斬新な研究だったせいか周囲の理解が得られませんでした。陸軍での研究開発の申請が却下されて軍を退き、製薬会社に勤めながら研究を続けていたのですが、ライト兄弟の成功を聞いて、すっぱりと研究開発をやめてしまったそうです。もし資金に恵まれていたら、日本人が世界初の飛行機による初飛行を成し遂げていたかもしれません。

飛行機開発をやめてしまった二宮忠八は、これからは飛行機事故で犠牲になる人が増えるに違いない……と考え、みずから神職の資格を取って、自宅の敷地内に航空殉難者の慰霊と航空安全を祈念した「飛行神社」を建立したという訳です。こちらの祭神は天磐船(アメノイワフネ)に乗って空を自在に駆け巡る神であるニギハヤヒノミコト。天磐船をご神体、ニギハヤヒノミコトを祭神とする大阪府交野市の磐船神社から分霊、勧請したものです。

こちらの例大祭は、二宮忠八が1891(明治24)年にカラス型飛行器(模型)の初飛行を成功させた日にちなんで、4月29日に執り行われています。また、境内には二宮忠八の功績を記念した資料館も併設されています。

航空安全を祈念する各地の神社仏閣。受験生の方は「落ちない」祈願として、一般の方は飛行機での帰省や旅行に備えて安全を祈願しに、参拝されてみてはいかがでしょうか。

航空神社

龍光山正宝院(飛不動)

飛行神社
https://www.enrichen.co.jp/hiko/

(文・写真:咲村珠樹)